あの時とこれからの日常

「よう、黒崎」

屋上で息抜き

売店で売っているパック黒酢をすすっていた海斗は、背後からかけられた声に視線だけで振り返る

「荒井か」

麻酔科勤務の荒井である

ぺたぺたと走ったらすっぽ抜けそうなつっかけ式のサンダルを鳴らしながら荒井は海斗の隣に座る

「ERに新しい研修医が来たって?」

荒井は背が低いが、今は海斗がかなりベンチに浅く座って背を預けているせいで、ほぼ同じくらいの座高だ

「ああ、医局長抜粋だとさ」

海斗の声に面倒くささがにじみ出ているのを感じて、荒井は快活に笑う

その瞳は明らかにこの状況を楽しんでいる

「お前が指導医だって聞いたんだが。またやめさせるんじゃないのか」

「誰から聞いたんだ、その情報」

「さあ?黒崎病院歩いてればいやでも耳に入ったな」

荒井の言葉に海斗が嫌そうに瞳を細めた

明らかに研修医に対して、その指導医になったことに対していい感情を抱いていない海斗を、荒井はにやにやと見つめる

「女なんだろう?また言い寄られんじゃないのか」

どうしてこう、こいつは人をからかうことに喜びを覚えるのか

ふっと息をつきながら海斗は静かに口を開いた