「あら、ちゃんと育ててね。うちの将来を担う医者の卵なんだから」

だったら俺に任せるなよ、

そう心の中だけでつぶやきながら、二人のやりとりを不思議そうに眺める研修医に向き直る

「一応指導医の黒崎だ。よろしく」

抑揚なく紡がれた言葉と差し出された手

「あ、研修医の立花しるふです。よろしくお願いします」

小さく頭を下げながらしるふも手を差し出す

しるふが自分より背が低く、見上げてこないことをいいことに海斗は怪訝そうに首をかしげる

鈍感か、ただの世間知らずか

どちらにしろこの研修医が、海斗が医院長の息子であることに気が付いていないなら好都合だ

医療界で海斗が黒崎病院医院長の息子であり、ER勤務だということは、常識と言っても過言ではない、はずだ

まあ、なんにせよ

変な女…

そんな二人のやりとりを満足そうに見つめていた神宮寺が

「じゃ、頼んだわよ。黒崎先生」

満面の笑みを向ける


これが、二人の始まりだった…