「私さ、」

静かに穏やかな時間が流れる部屋で、しるふが再び口を開く

海斗はしるふに視線を向けるが、しるふは祈に視線を注いだままだ

「医者、やめようと思うんだ」

そっと紡がれた言葉

けれどそこには揺らがない響きがあった

「祈たちが小学生になるまで位は、一緒にいてあげたい。仕事だからって言いたくないなって思うの」

それに、祈たちの成長を見逃したくない

きっとそれは一瞬で過ぎ去って行ってしまうものだから

海斗に教えてあげないといけないしさ

「だから…、だから、ごめんね、黒崎先生」

そっと視線を上げたしるふの瞳は、少し懐かしいものだ

二人の間に流れる雰囲気も少し懐かしい

「しるふが後悔しないなら俺は何も言わない。もう決めてるんだろ?」

「うん」

ここ最近、気が付くと同じポーズで眠る祈と朝灯を見つめながら考えていた

「医局長や莉彩には悪いけど、でも、祈たちを見ていたいんだ」

母親として

「気が向いたら戻ってこいよ。立花の帰りならいつまででも待っててやるから」

海斗の言葉にしるふが瞳を細めながら頷く