「そうよ?何か文句ある?クリスマスはみんなでご飯食べれるって言ったの海斗じゃない」

「だから急にシンポジウムの…」

はあ、と額に手をやりながら思い息を吐く海斗の耳にしるふの念仏が聞こえる

「聞こえない、聞こえない」

「わかった。7時にここを出る。それで妥協だ」

「妥協してくださいでしょ?妥協するのは私で海斗じゃないもの」

「っとにかわいげのない」

「なーに。何か言った?海斗君」

「言ってない。ひとまずあと一時間でどうにかけり付けて帰るから」

そうつげると、了解、頑張ってね、と最後だけ優しい声でしるふが返す

通話の切れたスマートフォンを見下ろしながらはあと息をつく

「やっぱり駄目でしたね」

明らかに面白がっている声は秘書・聖のものだ

「一回この仕事の山をしるふに丸投げしてみるべきかもな」

少し疲れのにじんだ顔でそうつぶやき、海斗はリズミカルにキーボードを打ち始める

しるふを医療界の経営などにかかわらせるつもりは微塵もない癖に

そう思いながら集中し始めた海斗に軽く低頭して部屋を後にする

5時50分

イヴの静かな夜にうるさいほど時計の音が響いていた