あの時とこれからの日常

―立花

そう呼ばれると不思議と落ち着けたのを覚えている

研修医を終えてずっと海斗の隣に並んでいると目配せで大体のことが分かるようになって

それがいつも寸分たがわずで、妙にうれしかった

はじめは大丈夫かと問いかける響きが含まれていた「立花」にも、

そのうち信頼が含まれるようになっていた

それが何よりうれしくて、頑張ってる海斗を見るとデートのドタキャンも

突然の夜勤も仕方ないかなと思えてしまう

それくらい海斗は医師だから




「飯田」

ゆったりとした昼下がりの午後

昼休憩を終えて医局に戻ってきた莉彩は背後から呼ばれて振り返る

「なんですか、黒崎先生」

「あれ、何」

「あれ…?」

海斗の指の先を追いかけて、

「……あれはー、…なんというかそのー」

その先にいるしるふの姿に、莉彩は言葉を濁す

というか自分の妻をあれ呼ばわりとは、さすが淡泊が売りの海斗だ