「おかえりなさい」

珍しく7時前に自宅の扉を開けた瞬間、頭上から低い声が降ってきた

後ろ手にドアを閉めながら視線を上げると、不機嫌さを隠そうともしないしるふの細められた瞳がこちらをにらんでいる

しかも腕組みなんてしてるもんだから、これは相当に怒り心頭な状況なのだろう

「なんかあった」

とはいってもそれくらいで殊勝になるほど自分は周りからの影響を受けない

「賢い男って言うのは、こういう時なんかあった?じゃなくて何かした?って聞くものよ」

つまりそれは自分が何かしたのかと聞けということで…

ふと今日の自分を思い返してみる

忙しすぎて真夜中の帰宅or病院に泊まり込みなんてこともなく、7時前なんていう自分にしては素晴らしく早い帰宅

仕事にかまけてしるふから来たメールでも無視しただろうか

それか今日が実は何かの記念日とか

いろいろ考えてみたけれど、何一つ思い当たる節がない

「……降参、まったく思い当たらない」

靴を脱いで冬使用になったふかふかのスリッパに足を通す

「少しは申し訳なさそうにしなさいよ。これでも妻が怒ってるんだから」

「思い当たらないものは思い当たらない」