どうした、と案じるような瞳が向けられる

「ごめんね、心配かけて」

いつもは冷静な海斗が焦ることはそうそうない

あの時、自分の名を呼んだ声は、医者としてのものではなく

一人の人間として、夫としてのものだった

そして先ほど見せた安堵した瞳

何かを確かめるようにほほを撫でる手

海斗が心配していたことを知るには十分だった

「わかってるなら、いい」

ただ、こうしてしるふが無事でいてくれるなら

涙を流さなくて済むのなら

謝ってくれなくていい

そっとほほにあった手を握る

出血がひどかったためだろうか、まだ少しいつもより冷たい

時々、あまりにも身近にありすぎて忘れそうになる

しるふが隣に居ることが、笑っていてくれることが当たり前すぎて

もししるふを失ったら、自分は立っていることがやっとのはずなのに

忘れないようにと思っているのに

「かいと」

呼ばれて視線を上げると

「褒めてあげて」

そう言いながらそっと視線をはっきりと大きくなった腹部に向ける