あの時とこれからの日常

いつもならノックをしてから入ってくるのだが、今日は急いでいるのか入ったときの会釈も言葉もどこか適当だ

全員の目が聖に向く中

「どうした」

会議中だぞ

すたすたと早歩きで近づいてくる聖に海斗が声をかける

「副医院長、先ほど連絡がありましてー」

少しかがんで海斗に小さな声で用件を述べる

その声は少し焦燥感が感じられるような気がした

「しるふが?」

聖の言葉を聞き終えた海斗が、驚いたように少し焦ったように聞き返す

海斗の言葉に周りの医局長たちが顔を見合わせる

しるふと言えば、一年ほど前までは黒崎病院のマドンナとの愛称で呼ばれていたER所属の女医

医局員たちにとってなじみ深い、とても大切な存在だ

海斗が唯一育て上げた医者で、しかも今は黒崎病院副医院長夫人

6月くらいから産休を取っている(とらされた)ためERを離れたと、けれどよく病院内でその姿を見ることができ、時々昔のように海斗と一緒に歩いている

その元気そうな姿を見るたびに、海斗と仲よさそうにじゃれ合っている様子を目撃するたびに黒崎病院は安泰だなー、と一人ごちるのだ

「状況は」

海斗の短い言葉に

「詳しいことはわかりませんが、出血が止まらないとのことで」