「うん。命日だからさ。夕日が好きだったの、あの人」

だから日が沈まないうちに行ってあげようと思って

「じゃあ、ついでに俺の分も上げてきてください」

海斗の言葉の意味が分からずに首をかしげると

「おいしい紅茶と貴重な仕事場を提供してもらってるお礼に」

そう言った海斗の口調はやわらかで、漆黒の瞳も穏やかだ

反射的に海斗から紅茶のカップを受け取り、片づけをして店を後にする海斗の背を見送る

大きな窓からはオレンジ色の夕日が差し込んでいて店内を温かく照らす

「…海斗君には、敵わないなー」

ああ、やっぱり、どんなに寂しくてもこの店を続けていこう

海斗が、大切な人を連れてきてくれるまで

あわよくば、その先を見れるまで

そしていつか彼のもとに行ったとき、胸を張って話すのだ

あなたがいなくても生き抜いたと

でも、やっぱりそばにいてほしかったのだ、と




まだ一人だった頃 完