「あ、医局長」

丁度階段を下りてきた神宮寺を認めてしるふが声をかける

「あら、立花先生」

結婚してもしるふは立花と呼ばれている

はじめはどう呼ぼうか、とER内で話題に上っていたのだが、黒崎先生というとどうしても海斗が出てくるし、しるふをみてとっさに口にするのが立花先生だったために、もうこのままでいいか、と皆が思った結果だ

しるふもそちらの方がしっくりくるし、海斗ですらERで会うと立花と呼んでくる
始末

「医局長、どうしても産休取らないとだめですか」

「ダメよ」

ああ、こっちも即答

「まったく体調悪くないんですけど、それでも?」

「それでもよ。自分の立場を理解しなさーい。黒崎病院次期医院長夫人よ?何かあってからじゃ遅いもの」

そんなに大層なご身分じゃないと思うのだが

「それに産婦人科だって、もし立花先生に何かあったらこの病院で肩身の狭ーい思いすることになるのよ、それは頂けないわ」

まあ、それよりもしるふの体調ともしもを心配してのことだろうけど

「海斗が許可してくれたらいいって言ってくれたんですよねー」

だから副医院長室にいってみようかと思って

少しうれしそうに笑うしるふに、5年ほど前と変わらない純粋さを感じる