「じゃ、帰るか」

「へ?」

呆気にとられて手の下から海斗を見上げる

「ここに来た目的は達しただろう?だったら居る意味はない」

さしも当たり前のように告げる漆黒の瞳を見返し、

「いや、一応主役じゃないですか、海斗君」

すでに出口に向かおうとする海斗を制する

「もともと来るつもりなんてなかったんだ。少しでも顔を出してやったんだから感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない」

いやいや、あなたのために開かれたパーティだから…!!

「…というわけだ。あと頼むぞ、聖」

ふと視線だけを背後に移した海斗につられて振り向くと

すべてを了承したように小さく会釈する海斗の秘書・聖の姿があった

「聖さん…!!」

「くれぐれもお気をつけて。あとはこちらで処理しておきますので」

抑揚なく告げる声は、海斗にどこか似ている

満足そうに笑った後、すたすたと歩きだす海斗の背を、聖に会釈してから慌てて追いかける

「ちょっと!!海斗!!」

たとえ結婚しても、その背がそっけないことは変わらない

いつだってほんの少し前を歩いているのだ

でも、それでもいつだって手を伸ばせば、ちゃんと掴み取れるから不安になんてならないんだ



「あ、ねえ。海行こ。海」

夜の海もまたおつだよー

腕に手を絡めてくるしるふに小さく笑いながら頷く

始まりの海は、いつまでも穏やかだ




就任祝宴会 完