あの時とこれからの日常

短くも適切に放たれた言葉に周囲から驚きの声が上がる

海斗が育てた、ということろが相当意外だったらしい

その瞳が明らかに興味を増す

軽く会釈をしながら少々の居心地の悪さを感じていたら、音もなく再び腰に海斗の手が回る

ぽんぽんと二回ほどいつも頭を撫でるようにリズムを打つ

それだけですごい安心感を覚える

「それで、どこの御嬢さんなんだい」

海斗が育てたということは相当な医者ということを示す

それが分かるから山辺教授の顔には、少しだけつまらなそうな色が浮かんでいる

いびる材料を探している小姑のようだ

「別に。どこの、というわけではありませんよ。我がERを代表する救命医です」

強いて言えば、10歳の時に両親を亡くしてそれから少し孤児院に入って、国立大医学部ストレート出の少々特殊な経歴の持ち主といったところだろうか

「君は私たちをからかっているのか。黒崎病院跡取りとあろうものが、何の利益のない娘を嫁にするなんて」

明らかに怒気を含み、責めるようにまくしたてる

「母も黒崎病院の一従業員でした。けれど黒崎病院の躍進に相当な貢献をしたと周囲は口々に言いますし、それを考えると学歴や家柄基準で伴侶を選ぶことにメリットは感じませんね」