あの時とこれからの日常

でも、腹をくくったんだ

海斗だけに背負わせない

出来るだけ同じものを、少しだけでも背負っていけたら

海斗のその背にかかる重圧を減らせるんじゃないかって

ついでに目には目を、歯には歯をってよくいうし

女には女を、だ

左手の細い輝きをそっとなでる

ちょっとやそっとで折れてやるかわいい女じゃ、ないのよね

「しるふ」

凛とした声に呼ばれてふと振り返ると、濃紺の細身のスーツに身を包んだ海斗が部屋に入ってくるところだった

相変わらず隙のない…

白衣姿は見慣れているけれど、こうしたスーツ姿はなかなかお目にかかることができないからもう5年も一緒にいるのに毎回新鮮だ

「行くか」

あれだけ嫌がっていたのに今はそんなそぶりを少しも見せない

そういう海斗の切り替えの早さというか、諦めの良さというかが割と好きだったりする

いつまでもうじうじされるのは嫌いなんだ

漆黒の瞳を見上げながら返事の代わりに小さく頷く

すっと海斗の手が促すように腰に回る

大丈夫、そう言われているようで、

場違いにも、ああ、こうやってエスコートされるの初めてだったかも

と、うれしさを覚えた