あの時とこれからの日常

「まったく、少しは黒崎先生帰還の余韻と結婚の喜びに浸らせてほしいわね」

背もたれに寄りかかりながら少しうんざりと告げる神宮寺に、海斗は苦笑を返す

事情を把握している海斗の横で、取り残されたしるふは、説明を求める瞳を向ける

「朝から、婚約発表に対する電話がひっきりなしなんだ」

そう告げる海斗は、もう慣れっこのようで大して驚きも呆れもしていない

きっと予想通りの展開なのだろう

「記者の質問に一般女性ですってだけで切り上げるからだよ」

好奇心丸出しで婚約者の情報を得ようとする記者の質問に、

海斗が返したのは、たった一言だ

そりゃ、記者会見を見た人たちも記事を呼んだ人たちも不完全燃焼だろう

あのまったく女性の影がちらつかなかった海斗が、

医療界の貴公子と呼ばれていた海斗が、

有ろうことか婚約発表をしたのだから

「俺は芸能人じゃないんだ。誰と結婚しようとこっちの勝手だろ」

ましてやそれを詮索される謂れもない

「まあ、そうなんだけどね」

芸能人と同じと言っても過言ではないと思うけど