あの時とこれからの日常

「それならなおさらね」

信次に黒崎病院ERの医局長になって欲しいと言われたときは、今更ともなぜとも思ったけれど

今はそんなこと微塵も思っていない

毎日毎日飯田や園田の元気の良さに

連携のとれた仲のいい医局のメンバーに

そして、すっかり肩を並べて歩く姿が定番になったあの二人に

微笑んで、声を上げて笑って

楽しいと思えるのだから

「神宮寺には、海斗のこと含めいろいろ感謝してるからなあ」

綺麗な花と水の入ったバケツを持ち、神宮寺の横を通り抜ける彼と並ぶ

「お相子よ、お相子」

自分だって海斗からたくさん大切なものを思い出させてもらったから

神宮寺のその言葉の意味を理解している信次が、ああ、と頷きながら笑う

と、

「あら、先客があったみたいね」

視界に入ってきた光沢のある黒い四角い石

黒崎家

と掘られたその石の前には、半分ほど灰になった線香と、まだ生き生きとしている花が生けてある