あの時とこれからの日常

「小百合さんに会いに来たの?」

「ああ」

聞いてからそろそろ小百合の誕生日だったことを思い出す

黒崎小百合

信次の最愛にして、今は亡き妻だ

「相変わらずねえ」

感嘆したような響きに、信次が苦笑交じりに

「それはお互い様だ」

と、返してくる

確かにー

その意を込めて、ふと口だけで微笑む

視線は燃えていく線香に注がれたままだ

「じゃあ、私も久々に小百合さんに逢いに行こうかしら」

空になったバケツを持ち、立ち上がると入れ違いに信次がしゃがむ

「別にいいのに」

先ほどまで神宮寺が見上げていた墓に線香を置き、無言で手を合わせる彼に、

呆れた様に上からつぶやく

「そういうわけにもいかないさ。もう医者には戻る気のなかった神宮寺を、無理やり引き戻したんだから」