夜になると街は顔をすっかり変える

昼間は何の飾り気のない通りも夜になるとネオンや人影で一気に賑わう

がやがやと行きかう人々の話声を聞き流しながら、海斗は通りの一角にある店を目指していた

地下に続く階段を下りると木製の趣あるドアが出迎えてくれる

そっと押せば、ギー、とらしい音が低く響く

ドアに取り付けられたベルが小さく鳴り、店内に来客を告げる

うす暗い照明が照らす店内を見回して知った背中を見つけた海斗は、音もなくその背に近づいて行く

「よう」

声をかけられて持ち上げたグラスを口元で止め、そっと黒い瞳が見上げてくる

「なんだ、意外と早かったな」

ふと口角を上げながら嫌味交じりに言うのは、海斗の長年の相棒・瀬戸弘毅

「さっき出るって連絡しなかったか」

弘毅の隣の椅子を引いて腰かけながら海斗が告げる

「お前のことだから来る途中で事故にでも遭遇するかと」

探偵の行くところ事件ありっていうだろう?

「やめろ」

不吉すぎる

ため息交じりに告げて海斗は一番弱い酒を注文する

対する弘毅が口に含む酒はかなり強い