一方、しるふは、

「ふん、ふふん」

狭い部屋の中

一日の疲れを洗い流し、ショートパンツにTシャツという超色気も何もないラフな格好で、

お供に茶豆を据え、キンキンに冷えきったビールを冷蔵庫からお迎えしようと鼻歌を歌っていた

と、

ブー、ブーと振動から出る鈍い音を立てて携帯がテーブルの上で震える

「んー?…ん?」

画面に表示されたのは、めったなことでは電話もメールもしてこない我が恋人

しかも今は確か高級ホテルの一角で行われている食事会に参加しているはず

嫌そうな顔と雰囲気を隠すことなく病院を後にした海斗を思い浮かべながら

通話ボタンを押す

「もしもし?」

片手で冷蔵庫のドアを引っ張る

「…何してた」

電話口から聞こえるのは、低い落ち着いた声

車のエンジン音が近づいてきて遠ざかっていく

歩きながら電話しているらしい

「何って、シャワー浴びてすっきりしたし、晩酌でもしようかと…」

何してた、なんて今まで電話で聞かれたことあったかな