「そのままで」

 いつの間にか、男は手に筆を握り熱心に私を見つめていた。


 切れ長の瞳が射抜くように光る。

 男は慣れた手つきで紙の上に墨をのせ、私の姿を収めていく。

 白く、細くしなやかな指が、するする動き、徐々に私が写されて行った。



 美しい音色を奏でるその手が、今は私を描いている。



 全身が火照り、胸が焼けそうに熱くなった。

 男の視線が私のどこかを捉えるたびに、痛みのような快感が身体中を駆け巡った。

 ドクドクと心臓の音が大きくなっていた。




 烏帽子の男と私の間には、小さな土の様なものが盛られていて、そこから昇るもんやりした艶めかしい煙が小さな船内を満たしていた。



 夢のようなひとときだった。

 懐かしいひとときのような気もした。



 絵を描いている間、男は私に語った。男の声は高く澄んでいて、水面を滑るそよ風のように涼やかだった。