男は汗ばんだ手で私の身体に吸い付いたまま、メインの通りを脇に逸れ、細い路地に入った。
見るからに治安の悪そうな奥まった道だった。
道中、男は捲し立てる様に三味線についてのうんちくを始めた。
「本来、津軽三味線は猫皮じゃなく犬皮を使うんだけどね、僕の三味線は猫皮を張った高級な奴なんだ。犬と猫じゃ値段も音質もまるで違う。
たまに合成皮の安物を売ってる店とか見かけるけど、あれは最悪だよ。はっきり言って子供の玩具だね。音楽をやる人間として、あんなシロモノが売られていること事態、本当に嘆かわしく思うよ」
「もちろん、下手な奴はさ、どんなにいい三味線使って弾いても所詮下手だから、そういう奴らのために合成皮なんて陳腐なものがあるんだろうけどね。
まあ、君にはちょっと難しい話かもね。つまりそれくらい、三味線っていうのは音が繊細なんだ。だから僕はね、値段が張っても猫皮に決めているんだよ」
「そうそう、猫皮はね、まだ交尾したことの無い雌猫がいいんだよ。どうしてか分かるかい?」
「ふふ。猫の交尾って結構激しくて、交尾中に雄猫が雌を引っかいちゃうんだよね。そうすると折角の皮に傷が付いちゃうだろ? 傷が付けば音質も値段もぐんと落ちるんだ。
だからさ、処女がいいんだよ。処女がね」
一瞬、私の胸元にねっとり視線を絡みつかせ、男は更に早口で続ける。



