「……あの、安田さん」

「なんですか?」

「その、たくさん……いたんですよね?」

「ええ……4人いました」

「その人達の特徴教えてくれませんか?」

「小学生くらいの男の子、中年の男性に、同じく中年の女性、そして、――老婆」

「たしかに、ここに越してから、その人達を見かけたことはあります。……でも、違うんです。その人達はただ、『見かけた』だけなんです」

「……違う?」

「……違うんです、合わせると全部で5人なんです。あと、一人。若い女がいるはずです」

「女……?」

「そういやお前、女って言ってたな」

「まさか………!?」

 目を見開いて、安田さんは急いで私の部屋に戻る。

「安田さん!?」

 私達も思わずその後を追いかけて中に入る。

「最初は、多数の霊しか見えなかったが……この者達は、引力で引き寄せられただけなのか」

「……引力?」

「とある霊が一箇所に留まると、やがて土地との因果から強力な思念を持つ。これが地縛霊。その陰の気には浮遊している者達が引き寄せられるものなんです」

「じゃあ……」

「――ええ、まだどこかに、彼女はいます」




 私は息を飲んだ。

 ああ――ほんとうだ。
 
 いる――視てる。



 私を………視てる。




「ベッドの……し、下……………」

「……えっ」

 困惑する私と状況を理解できていない怜二を他所に、安田さんは一人、経を唱え始める。

「危害を加えないとも限らない! 二人は外に出ていてください!」

 怜二に連れられて、私は外へ出る。怜二が必死に青ざめた私に何か言っているが、駄目だ。何も聞こえてこない。


 あの、禍々しい視線が、私の網膜に焼き付いて離れないのだ。



「――黒かった」


「え?」


「なんで……あんなに黒いの!?」


「どうしたんだよ! 大丈夫かよ……夕浬!」

「……何か、呟いてたの」

「……何をだよ」



 聞こえたわけじゃない。
 でも、口が動いて、それで私をじっと見ていて。
 

 そう。こう言った。





「『逃がさない』」