去っていくその背中を眺めながら、私は決意する。

 

 ――私は、この先をどう生きていけばいいのか。

 ずっと考えていた。

 考えて考えて、ようやく答えが見つかった。

 こうするべきなのだと、運命なのだと、私は確信をもって進むことができる。



 
 見ていて、お母さん。

 頑張るよ、玲二。

 ――行くよ、お姉ちゃん。



「ちょっと、灰川さん! 待って!」


 

 声をかけるが、彼は止まらない。

 聞こえているはずなのに。




「こら! 無視するな! 灰川倫介! このスカしたワカメ頭!」




「……なんですか。小宵さん、名誉毀損で起訴しますよ。これは断じてワカメじゃない。言いがかりはやめていただきたい」


「私、この数週間寝たきりだったじゃないですか……」


「ええ、それが?」


「だからバイト、クビになっちゃったんですよ、無断で休んだから。……困りました」


「……つまり?」


「――どこかいい働き口、紹介してくれませんか?」




 私の目を見返して、彼は深くため息を吐き出しながら頭をぼりぼりとかく。

 きっと、先程私の声を無視した時からこうなる察しはついていたのだろう。お見通しだ、相変わらず。


 でも、あなたならわかるでしょう。

 こうするしかないってことも。

 こうするべきなんだってことも。


 ――彼は、前を向き再び歩きだしながら、静かに背中越しで答えた。




「……まずは面接からだな」






 ――夕暮れの中を。


 『夕』と『宵』のまじる中を。


 一陣の風が通りぬけていく。


 この新しい運命の中を進んでいこう。


 その先になにがあっても。


 なにもなくても。




 ――私達はもう、そう決めちゃったんだから。






     













       『憑き物落とし・第一章~怨炎繋系~』  完