「環流寺住職の安田弥太郎と申します」

 体格がよく、太っているというよりはがっしりしている。眼鏡をかけたなんとも貫禄のあるお坊さんだった。線香のほのかな香りと、紫の衣を身に纏っている。

 おもわず私は、その雰囲気だけで救われたような気分になってしまう。

「して、どのようなご用件で? ……だいたいは察しがついておりますが」
「はい、その、お祓いを頼みたくて」

 怜二がなんとも切り出しにくそうにそう言うと、安田さんは静かにうなずきはじめる。

「……………………うん、うん」

「はい?」

「そちらのお嬢さん、だいぶ絞り取られていますなぁ……。あんまり長く放っておくと危ないかもしれませんね」

「え……あ、はいっ、そうなんです。 実は私のマンションで……」

「まぁ、どうぞお座りになってください」

 図星を突かれ、私はおもわず体を起こしてしまっていた。

「すみません」

「……では、私への依頼は『仏滅』でよろしいですね?」

「ぶつめつ?」

「ええ、人に仇なすモノを祓い、滅し、浄土へ導く。それが仏滅です」

「はい、どうかよろしくお願いします……」

「御代などはお気持ちの程で結構です。お金の為にやっている仕事ではありませんので」

「あ、いえ、そんな。ありがとうございます」

「……では、今から少しそのお部屋を見せていただいてもよろしいですかな?」

「はい」

「少々支度がありますので、お待ちください」


 笑顔で去る安田さんからは、安堵という名の光が凛々と差し込んでいる。私は胸を撫で下ろすと、内につかていた不安が少しずつ解けていくのを感じた。