瑞町は、呆然としながらももがき苦しむ化物に、哀しげな眼差しを送っている。

 やがて、決壊したかのように涙を滴らせる。

 僕では、とてもその胸中を理解することは敵わない。

 想像を遥かにこえて、悲しみ、愛、憎悪。それら多くの感情が渦を巻いて奔流していることだろう。


「私は……私はどうすれば、いいの……? どうすれば、この哀れな姉を救う事ができるの? 私はこの姉を、憎くて憎くて仕方ない。でも、それ以上に、そんな自分が憎くてたまらない! どうにもできないの!」


「今 の彼女の行動理由とは『妹を取り込む』こと。しかし……この化物は、あなたの双子の姉ですが、元はひとつの存在だったものです。この『事実』を瑞町さんが 理解した今、もう自然な形で瑞町さんを取り込み、彼女が主軸のひとつの存在になることは不可能となってしまった。じきにこの化物は消滅します」


「もう、なにも……できることはないの?」


「僕にはありません。この消滅はあくまでも彼女の中でのみ完結する事象なので、僕の力では何も届かない。しかし、瑞町さん、あなたにはまだやれることがある」


「……できることはなんでも、します」


「逆に、この化物をあなたが『取り込んで』ください。事実を理解した今、もともと繋がっていたあなたにはそれができるはずです」
「取り込む……? そうしたら、姉と、私はどうなってしまうの……?」


「ここまで弱まったこの化物は、あなたの中で増長することはないでしょう。意識こそないですが、無我のひとつとして、静かにあなたの中で存在できるかもしれません」



「……わかりました。――不思議と、その方法はわかります……」



 瑞町は、涙を拭くと、まっすぐに蹲る肉塊を見下ろし、ゆっくりと近づいた。


 ――この先は、姉妹で解決することだ。



 僕は、静かに病室を後にした。



 廊下を通り抜ける風が、髪をゆらす。



 ――本件で僕にできることはここまでだろう。



 この哀しい姉妹の愛憎の物語はここでひとまずの幕を下ろす。


 奥底に隠された真実に辿り着くまでに、多くの犠牲を払ってしまった。このことを、忘れてはいけない。


 願わくば、せめてごく普通の、ありふれた安息が彼女たちに訪れることを祈るとしよう。



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