「いよいよもって、真相まであとひと押しか」

 この墓は、墓として機能している。
 
 干渉することこそできなくても、その場にそれがいるのかどうか、くらいはわかる。仕事を通して培われた主観による感覚的な判断になるが、ここには浅神箕輪 がたしかに祀られていて、地縛している。だが、その在り方はいささか妙だと感じた。いかに無残な死を迎えたとは言ってもここにいる以上は悪意はない。

 いや、それどころか……。

「なんだ……?」

 墓の前の錆の目立つ花瓶がゴトリ、と静かに倒れた。僕はその花瓶を元に立て直し、腰を落として 墓を見つめる。何か、僕に伝えることがあるのだろうか?
 
 一般人でも、イタコのような交信する能力はなくても、霊自身が伝える気があるのなら、例えそれが 多少強引な手段になってしまったとしても受け取ることはできる。僕は手を合わせ、体の力を抜いた。

 一瞬だが、強い風の中に、線香の臭いを感じた。すると、ピタリと風が止まり、雨足も弱まる。擬似的な無音の世界が訪れた。

 それは一瞬だった。


「『ffffクfff………フタ……・・・・リヲ、タスケテ……Ehァ¶……g∉tィ』」


 耳元で、しゃがれた声がつぶやく。


 僕の力では、中の一言を聞き取るので精一杯だった。僕自身ではかなわなくても、向こうから歩み寄ってくれれば、一般人でも声を感じることぐらいはなんとかできる。

 『二人を助けて』?

 その真意を紐解こうと、今有している全ての事実を整理しようとした瞬間だった。

 携帯の着信音が鳴り響く。

 いままでジャミングされているかのように全く使い物にならなかったというのに、いきなりどうしたというのか。

 しかし岡田玲二からの切迫した内容のメールを見て、僕はすぐさま走りだした。

  明らかに、瑞町夕浬と岡田玲二に危険が迫っている。

 ……浅神箕輪は、この二人への危険を知らせてくれたというわけか。根本的な解決の糸口にはなっていない、が、今はこ の協力に感謝して北西の寺に急ぐしかない。


 ――こうなってしまった以上、時間を稼ぎ、今は奴からただ逃げるしかないのだ。