「そんな方法で、本当に大丈夫なのかよ……」

「大丈夫です」

「この前ここに来たお坊さんは、『力』を持っていた。なのに、簡単に……」

「その力というのは、人が唯一魂に触れる為のもの。確かに、強力で、その力というものも存在します。しかし、その『力』を駆使する方法は、もう古いんです」

「ふ、ふるい?」

「はい。経文というのは、『文字と声』の力。そして、実際に読み上げる『人』による説得です。人の情に訴えかけ、導くもの。似ていますが、僕のとは違います。『経文』は強引なんです。去れ、と言われて素直に去るチンピラなんて、今の御時世いないでしょう?」

「なんていう、偏った考えなんだ。そもそも、あんたには『力』がないんだろ。いくら口でうまく言っても……」

「そうでもないですよ。事象で言うなら、言葉で十分」


 僕は鈍感な肌を研ぎ澄ませた。こんな僕でも、場数を踏むと『勘』というやつなのかわからないが、存在くらいはなんとか認知できるものだ。自然の理を無視した存在は、それだけで違和感を産む。

 ……近くで、見ている。

 僕は口元に小さく笑みを浮かべると、話を続けた。もう少しかもしれない。


「人を殺すのに、ナイフや銃は入りません。口で十分」

「そんなわけねぇだろ」

「あるクラスの一人の少年が、普段通り登校し、親友に挨拶をした。「おはよう」。友人は「死ね」といった。理由もわからないまま他の友達、先生、親、全ての人間にも「死ね」と言われた。行われる会話は、「死ね」の一方通行。この少年は3日と持たず死にますよ」

「あんた……」

「悪質な霊は、まさにこの少年と同じような精神状態をつくり、目標を衰弱させ、やがては自分から命を絶たせる」

「じゃあ夕浬も」

「少しずつ、削られていくでしょう」

「ならなんで、こんなとこに連れてきたんだ!」




「――この為ですよ」



「え?」