やばい。
私は心の中でそう呟いた。
教室ではいつも温和で、まじめで、誰にでも分け隔てなく接する「正義」の化身のような人。
その彼が、本気の怒りを私に向けている。
眼鏡の奥の彼の瞳は、憤怒の色で満ちていた。
「お前、調子のってんの?」
また言った。
また「お前」って言った。
いつもは「僕」とか「きみ」とか、優等生然とした言葉を使うのに。
さっきなんて「我々」とか言ってたのに。
「べ、別に調子のってなんか…」
「じゃあ何?俺のことバカにしてんの?」
「はぁ…?」
今度は「俺」って…。
何なのこの人。
この人、本当に瀧澤なの?
「…あの、急にどうしたの?」
「『急に』?急に俺がどうかしたように見えるか?」
み、見えるよ!
完全に別人だよ!
怖いって!!
「………お前、ほんっとにバカなんだな」

