言われるがまま荷物を部屋に取りに行き、玄関へ戻る。
ブーツを履いて、外に出たいのに大野さんはドアの前に立ったまま動かない。
後ろから手を伸ばしドアノブに手をかけようとした時、あたしは手を引っ張られ、ドアの方へ追いやられてしまった。
大野さんはドアに手を突いていて、あたしにはもう逃げ場がなかった…。
「──さっきのが例の二股男?」
「そうです」
「何しにここに来てた?」
「それは…。一言では言えません」
「すっげー失礼な男だったな。水谷にあんな男は似合わないよ」
大野さんが片方の手をあたしの頬にやった。
体がビクンとなる。
「あいつ急にここに来たんだよな?」
「はい。インターホンが鳴った時に大野さんが早く迎えに来たと思って確認せずに出たんです。そしたら竜くんで…」
あたしがあの時、確認さえしていれば、こんなことにならなかったのに。



