携帯が返事を返して呉れるとは思わなかった俺は、呆気に取られてしまった。
 酷く驚いた顔をしている俺を携帯はただ睨(ね)め付けるだけであった。
 背筋に悪寒が走るのと同時に、嫌な汗が額から沸き出る。
「なんで、喋ることが出来るんだ?」
 俺は恐る恐る聞いた。
 もし、貴方の携帯が行き成り話し掛けて来たら誰だって怖いだろ? さっきは返事なんて返って来ないと思っていたから、其程(それほど)恐怖はなかった。然(しか)し、返事を返すと判れば誰だって恐怖に襲われる。それが人間の認識水準だ。
「……わからん」
 携帯は徐に喋った。
 同時に困却しているのはこの携帯も一緒なんだなと俺は気付いた。
 喋る携帯を片手に俺はベッドから立ち上がり、クローゼットの方に手招きをした。
 クローゼットの中から、俺と同い年の少年が出て来た。
「本当に章一の携帯は可笑しいな」
 改めて納得したような口調で西藤信彰(さいとうのぶあき)は頷きながら言った。
 俺の携帯が可笑しいと信影に教えたら「見てみたい」と信影が言ってきたので、俺はクローゼットの中から様子を伺うようにと信影に伝えておいた。