この小さな携帯画面に映るのは『小形寄生物』の複眼であった。
 白目の中にぎろっとした漆黒の瞳は俺を怨みがあるかのように睨み付けている。それに返すように俺も携帯画面を睨み付ける。
 俺の部屋の中では、不気味というか、奇妙な沈黙と共に時計の針の音が独り歩きをしていた。
 そんな中、俺はベッドの上に座り携帯を持っている。
「お前、なんで意志がある?」
 いつも以上に感情を込め、携帯に向かって話す俺は嘸(さぞ)かし可笑しく見えるだろう。まあ、俺を怪しく思う者はこの部屋には誰一人としていない。何故なら、この部屋に入る者は俺と『携帯電話』だけであるからだ。
「……悪いか?」
 俺の携帯は後部に付いてあるスピーカーから蛮声を上げた。通話ではない。確かに携帯は喋ったのだ。
 その声は渋くてがらがらしている。色で例えるなら夜色(よるいろ)のような何処までも底に辿り着かない昏(くら)い響きであった。果して、夜色という色があるかどうかは定かではないが。