その鳴き声は、あたしの鞄からだった。
よかった、携帯は少し濡れてるけど防水だから壊れてないみたい。
そして電話に出る。
〈友紀?すごい雨だけど、大丈夫なの?〉
母からだった。
雨はまだ、ザアアアアアアとふっている。
外出たらヤバそう。
『うん…今、亜優っちなの』
〈あら、そうなの?〉
母は亜優を知っている。
なぜかというと、一緒に帰っているのを見られた…から。
そういうのが大好きな母は、もう娘の恋バンザイって感じ。
「このためにアンタを娘に産んだのよ」って嬉しそうに言っていた。
『うん。帰れるかなぁ?』
〈亜優君ち、どこらへんなの?〉
『え?えーっと…亜優が言うには、あたしっちから公園までと、公園から亜優っちまでは同じくらいって言ってた』
〈それでも歩いて帰るのはきついわね、もう遅いし〉
『うん。どうしよっかな…』
〈泊まらせてもらっちゃえば?〉
見えないけど、ニヤニヤした母の顔が浮かんだ。
だってもう声が…ニヤニヤしてるもん…。
『は!?泊まる!?ダメだよ、絶対迷惑だm』
「俺は別にいいけど?」
バッと振り返ると、亜優がいた。
〈だーいじょうぶよッ、お母さん大賛成だからー!〉
『………何にだよ』
そこまで言うと、あたしの手から携帯が消える。
『あれ』
いつのまにかあたしの携帯は亜優の手にあった。
「こんにちは、友紀のお母さん。今夜は友紀、ちょっとお借りしますね」
〈ほ、わあああー!亜優君だー!いいわよいいわよ、ぜひ楽しんでねっ!〉
『ちょ!!何言って!!ちょ、亜優!!おかあさ…』
…プー、プー、プー、プー…
「お母さんハイテンションで切ったよ」
亜優はそう笑ってあたしに携帯を渡す。
しゃがみこんだあたしに対して、亜優は立っている。
亜優の濡れた髪からしたたる滴が、あたしの顔にぽちゃっと落ちた。
…水も滴る…イイ男…
笑った亜優の顔はいつも見ているはずなのに、今日はいつもよりカッコよくて、いつもよりドキドキした。


