「まず…あの放課後について」

『うん』

「矢代を呼んだのは、確かに俺なんだ」

『…うん』

「最近、よく矢代に話しかけられたりして…あゆくん好き好きって、よく言われてたんだよ」

『モテる男はツライね』

「でさ、彼女がいるって言おうとしたんだけど、矢代って、評判良くなくて。なんか中学時代、矢代と同じ学校だったヤツから聞くと、好きな人は絶対手に入れるような奴で、…その人の彼女は、徹底的にイジめたりして別れさせるって、聞いてたから…だから、彼女はいないって言っておいたんだよ」

あたしのためだったって事?
……うわ、なんかムキになってた自分が恥ずかしい。

亜優はあたしを想ってくれてたのに。

「で、あの放課後、友紀を待ってたんだけど、おっそいなー、って思って。そん時、不意に靴箱見たら、矢代の靴があったわけ。で、ちょうど良かったから、ハッキリ自分の気持ち、伝えとこうと思って。矢代の事は好きじゃないから、まとわりつかないでほしい、って」

『うん』

「そうやって言おうとして、教室いったわけ。そんで、帰ろうとしてた矢代をとりあえず靴箱まで連れて行ったわけ。そこが待ち合わせ場所だったし」

『うん』

「でも、靴箱についた瞬間、矢代がなんか勘違いしたように『やっと瑛美の気持ち、分かってくれたんだね』とか言いだしたから、とりあえず付き合えないって伝えたんだよ。そしたら『え?何、言ってるの。…やだよ。あゆくんは瑛美のだもん。やだやだやだ。だって瑛美、ずっとこうしたかったんだもん!!』とか言って、抱きついてきて。離れようにも、『瑛美はこれほどあゆくんの事が好きなんだよ?』って離れないわけ。そん時に…」

『あたしが現れた…って、事?』



「そう」

全部の話をまとめるように、亜優がそう言ってうなづく。



『……なんだ、全部…あたしの、勘違いじゃんね』


矢代さんが口にした、『都合のいい事実』を鵜呑みにして、あたしの事を想ってやってくれたりした行動を怒っちゃったんだ。

うわぁ、本当にあたしが勝手に傷ついてただけなんだ。

まーさんの言うとおり。



「まぁ俺もさ、変な行動したのが悪かったよ。あんな時に、矢代呼ばなくてもよかったと今でも思ってるよ」

『ん。でもあたしが主に悪いよ。…ごめんね?亜優。いろいろ、怒っちゃって』

「ん、気にして…る、けど、いいよ」

『良かった。………あ』


あたしは不意に、ある事を思い出す。

「どした?」

『うんとね…』


そして、あれの目を覚まさせる。

永く眠りについていたそれは…

『……バッキバキに、割れてるね』


あの日のクッキーは、バキバキに割れてしまっている。

しかも鞄の中に入れっぱなしだから、保存状態もあんまりよくない気がする。


「うまそ」

そういう亜優を、おさえる。

『な、なんか悪くなってそうだから、だめ』



「じゃぁいい。他のもらう」

『え?他のって―――――』



壁に押さえつけられ、唇を奪われる。


『…っ、ん…ぅ…』



唇が離れると、亜優は
「ごちそうさま」
と、あたしの頬にキスをした。


なんだかんだで―――解決、でいいのかな。



『好きだばか』

最後にそう言ってやると、あたしからもキスしかえしてやる。


一瞬だけど。

亜優の驚いた顔に、してやったりというような顔で返してやる。



きっとこのバレンタインは、後に懐かしい良い想い出になるんだろうね。

心の中で、そう言った。