父は黙って考えているようだった。
「君の会社はこのまま存続してもらって、君にも社長のままでいて欲しいと思っている。
ただ、うちの子会社という形で業務提携してもらいたい。2000万はその契約金と思ってもらっていい。
 本当はもっと出してあげられたらいいんだが、うちとしてもその辺が限界なんだ。
 今すぐ返事をくれとは言わない。考えておいてくれ。また、あさって連絡するよ。」
斉藤さんはそういって、立ち上がると、つられて立ち上がった母に目礼して帰っていった。
母はそのままソファにまた座り込んだ。
父はじっと1点をみつめたままだった。
玄関のドアが小さく、どん、と閉まる音がした。
あたしはやっと立ち上がって、冷蔵庫から冷たい水を出した。
自分の分と両親の分、3つのグラスに水を汲んで、そのうちのひとつを一気に飲み干すと、
2つのグラスをソファのガラステーブルに運び、そのまま黙って2階に上がった。
そしてそのままベッドに倒れこみ、パジャマに着替える暇も無く眠りに引きずり込まれた。

2日後、父は承諾の返事をした。
おかげで、我が家に会話と笑顔が戻ってきた。