「それで、これからどうするつもりなんだ?」
斉藤さんは言った。
「とりあえず、この家と会社を処分するしかないだろう。
この齢で再就職も難しいと思うが、どこかに就職して地道に返していくつもりだ。」
斉藤さんは腕組みをして、しばらく天井をみつめた。
そして、腕組みを解いて膝に手を置くと、静かに言った。
「なあ、結城。これは、俺からの提案なんだが・・・君の会社を俺の会社の子会社にさせてくれないか。その代わりに2000万の借金はこっちで肩代わりさせてもらうよ。」
父は顔を上げた。
「斉藤さん。そんなこと、お願いするわけにはいかないよ。」
「まあ、最後まで話を聞いてくれよ。」
斉藤さんは父上の興された精密機器メーカーを引き継いで、社長をしている。
中小企業とはいえ父の会社よりかなり大きい会社だ。
「うちの会社は今のところ業績も伸びて順調だ。
ただ、優秀な技術屋がここのところ定年で次々と辞めてしまって、
正直困っているんだ。今は臨時社員って形でなんとか引き止めているが、
あと2、3年もしたら辞めざるを得ないんだ。
君はもともと優秀な技術をもっている。君の所の社員の技術レベルも優れている。
このままつぶすのはあまりにも惜しいよ。
君と俺が手を組めば、お互いのためにいいとおもわないか?」