結局、あたしたちの間に男女の愛情があったことは無かったのだと、あらためて思った。
少し哀しい。それは失恋の哀しみではなく、百合さんも含めて、命あるものが生きていくということ、そのこと自体がもつ哀しさに気付いたのだった。

次の週、父は結納を返上しに行ってくれた。父に本当に申し訳なく思う。
でも、帰ってきた時、父の顔は、疲れてはいたけれど明るかった。
夕食時にあたしが謝ると、父はしんみりとした様子で、
「気にするな。お前に、あの百合さんという人と同じ思いをさせなくて良かったと父さんは思ってる。確かに恋愛結婚が全てじゃない。でも、父さんは、お前が好きだと思える人と結婚して欲しい。優也君のことを好きじゃなかったと気が付いてしまったというのなら、引き返してよかった。だから、お前ももう気にするな。」
と言ってくれた。
母も横でうなずいていた。
あたしは、その言葉を聞いて、涙がこぼれないように必死でこらえていた。