あたしたちの前には、まだ大きな壁が立ちはだかっている。
あたしにはまだ婚約者がいるという事実。
あの蛍を見に行った日からちょうど1週間後の夕方、
父が優也とふたりきりで話をすると出かけて行った。
ちょうど、梅雨入りしたばかりで、憂鬱な土曜日だった。

「ただいま。」
父が帰って来た時、時計は10時半を回っていた。
「由佳、ちょっといいか。」
父が階段の下からあたしを呼んだ。
リビングに下りていくと、父と母がソファに座っていた。
「まあ、そこに座りなさい。」
と父に促され、あたしはソファに腰掛けた。
「優也くんと話をしてきた。」
「うん。」
「あの女性と友人であることは認めたよ。」