聡司は何も言わず、ただあたしの髪を撫で続けた。
もう、言葉はいらない。
お互いの気持ちは、はっきり分かり合えたのだから。

どのくらいそうしていたのだろう。
やがてあたしたちはどちらからともなく、離れた。
今はまだ、ここから先に進んではいけないことはお互いに分かっていた。
「蛍・・・見にきたのにね。」
「少ししかみれなかったな。」
「あたしは、聡司より少しだけ長く見たわ、きっと。」
聡司は運転席側の窓を見て、くすりと笑った。
「そうか、こっちが川だもんな。」
聡司は、蛍鑑賞の邪魔にならないように消しておいたカーオーディオを付けた。
CDのランプがオレンジ色に灯って、お互いの顔を照らし出す。
なんだかちょっと気恥ずかしくて、視線を逸らしながら、あたしはローラ・フィジィの甘い歌声に耳を傾けた。