あたしの記憶にある限り、
我が家に平安はなかった。
いつもいつも、両親はけんかばかりしていた。
だから、こんなに静かな日が続くというのは
ある意味、新鮮ではあった。

親がけんかばかりしてるときも、
兄弟がいないあたしには相談できる相手はいなかった。
あたしまで暗くなったら、
うちは空中分解するんじゃないかっていう不安がいつもあたしにつきまとっていたから、
あたしはどんなに不安な時も、学校で嫌なことが合った日も、
家では努めて明るく振舞ってきた。
今回も、そうするべきなんだろうか。あたしにはわからない。
でも、とってつけたような明るさなんか受け付けない重い空気が家の中に充満していた。
誰にも相談できない・・・。

そんなある日、あたしは自分の部屋で宿題をしていた。
なんだか、息が苦しい。
あたしは大きく息を吸った。
でも、息苦しさは増すばかり。
(あたし、このまま死ぬかもしれない・・・)
あたしは全身が痺れていくのを感じていた。
いつの間にか親に助けを求めに行くこともできないほど、体が麻痺している。
あたしは気を失った。

それからどのくらい経ったのか。
あたしは気が付いた。
時計を見たら、30分位経っていたようだ。
(今のは何?)
でも、親に相談する気はなかった。
とりあえず回復したのだし、
今、大借金を抱えて苦しんでいる両親の悩みをこれ以上に増やす必要ないじゃない?

母から聞いた話を総合すると、
父はたちの悪い詐欺師にひっかかったらしい。
相手はプロで、合法的に父を騙した。
父は、そのせいで2000万近い借金を負ってしまったのだ。
家も会社も、手放さなくてはならないところまで来てしまっていた。

そんなある日、夜遅くに斉藤さんが我が家へ突然訪れた。