その日の夜、11時。あたしは聡司の携帯に電話を掛けた。
「もしもし、聡司。」
「由佳、今日はお疲れさん。」
聡司の声が耳に、胸に、沁みる。
「今日は本当にありがとう。わざわざ、来てくれたんでしょ?」
「・・・まあな。だけどあのウイスキーは本当に教授にお土産でもらったんだ。
ま、今日行かなくてもよかったんだけど、お前のことが心配だったし。家に上がれるかどうかはわからなかったけど、とりあえず様子だけでも見たくて。おせっかいでごめんな。」
「おせっかいだなんて、思ってないよ。・・・ホントにうれしかったんだから。」
「まあ、明日にでも先輩に電話してみるから。とりあえず、今夜は何も考えないで寝て、ちゃんと睡眠とれよ。」
電話が終わってしまいそうで、あたしはあせる気持ちを抑えることができなかった。
「聡司・・・まだ電話切らないで。」
「いいけど・・・電話代かかるぞ。・・・じゃ、こっちから掛けなおそうか。」
「・・・ううん、電話代かからない方法で話そうよ。」
思いがけないことを言ってしまう自分が、怖い。
「えっ?」
「明日。明日、暇?」
「まあ、やることは色々あるけど、別に明日じゃなくてもいいよ。何だ?」
「わがままだってわかってるけど、気晴らしにどこか出かけない?」
「俺はいいけど・・・由佳は色々微妙な時じゃないか。いとことはいえ、男と出かけて大丈夫なのか?」
「大丈夫。」
何の根拠もない自信。
「家にいたら気が滅入るんだもん。・・・でも近場はやっぱりまずいかもね。ちょっと遠出しない?」
聡司がため息をつく。あたしは不安になった。
でも、聞こえてきた聡司の声は優しかった。
「・・・しょうがないなあ。いいよ。どこに行きたい?」
「じゃあ、三井グリーンランドに行こう。ね?」
「了解。じゃあ、明日ちょっと早いけど朝9時に公園のところで待ってるよ。」
「ありがとう。じゃ、明日ね。」
「うん、明日。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
そして、電話は切れた。