「由佳にも言い分があるんでしょ・・・ちゃんと話しなさい。」
母が言う。
「あたしが子供だったの。何もわかってなかった。優也のことを愛していないって、今更だけど気が付いたの・・・。」
「そんな理由か。馬鹿馬鹿しい。愛だ、恋だといってるのは若いうちだけだ。そんなことで結婚を棒に振るっていうのか。」
父が吐き捨てるように言う。
「何かきっかけがあったんでしょう?何もなくてそんなこと思うわけないもの。」
母はやっぱり鋭い。
あたしはしばらく逡巡した挙句、あの写真のコピーをバッグから出した。
「この写真よ。・・・たぶん、優也はこのひとと付き合ってるわ。」
母はコピーを手に取った。
「道理で最近由佳の様子がおかしいと思っていたわ。
このひとのことで悩んでいたのね。・・・何か証拠があるの?」
あたしはこの写真を見つけたときの状況を話した。
母はため息をついた。
「そう・・・。由佳の言ってることは的を得てると思うわ。でもねえ・・・。」
「・・・この写真じゃ証拠にならないっていうんでしょう?あたしにもそれはわかってた。優也も、そういって、笑ったわ。
でも、その態度を見て、あたし思った。やっぱりこの人とはやっていけないって。
言い訳も、謝罪もなかった。ただ、冷たく笑い捨てたのよ。
・・・あたし、あの人とは結婚できない。したくないの。」
母はコピーを手にしたまましばらく考えて、父の方に向き直った。
「あなた、私も優也さんとの結婚は反対よ。どんな事情があるにせよ、由佳の気持ちを踏みにじるような人のところに嫁に出すわけにはいかないわ。」
「しかし、証拠もないのに斉藤さんや優也君を納得させて婚約解消するのは、難しいぞ。」
父は腕組みをして言った。
あたしはテーブルに突っ伏した。嫌だ。どうしても嫌。
涙がどうしようもなくあふれ出る。
聡司、あたしどうしたらいいの?聡司、助けて・・・。

そのとき、玄関のチャイムが鳴った。