「ただいま・・・」
玄関を開けると、両親が飛び出してきた。
父の顔を見た瞬間、あたしの心臓は縮みあがりそうだった。
それは鬼の形相だった。
「由佳、お前・・・親に黙って婚約破棄とは何事だ!」
父は訳も聞かずにいきなりあたしの顔を叩いた。
生まれて初めて、父に叩かれた。
「あなた、由佳の話も聞いてやって。」
母は泣きながら父の手にすがり付いている。
あたしは、叩かれた頬より、心が痛かった。
「どうして・・・どうしてよ。」
泣くまいと思うのに、涙が流れる。
「お父さんは、あたしの幸せより、斉藤さんへの面子の方がそんなに大事なの?」
「そんなはずないでしょ。」
「当たり前だ!」
母の声と父の声が交差する。
「お前は、婚約を何だと思ってるんだ!?そんな簡単に破棄できると思ってるのか!婚約っていうのは契約なんだぞ。」
「・・・いくら契約だって・・・無理なものは無理なのよ!」
「ねえ、お願い。ふたりとも落ち着いて。由佳は、とにかく上がりなさい。」
母にとりなされ、あたしは家にあがってリビングへ移動した。