「いい曲ね。この曲。」
海岸沿いに走る。時々松林に視界を遮られながらも、きらきらと光を放つ海が続く。
車窓を流れる風景を眺めながら、あたしはカーステレオから流れる曲に耳を傾けていた。
「由佳もジャズ好きか?」
「これ、ジャズなのね。ジャズは全然わからない。今まで意識して聴いたことなかったから。でも、あたらめて聴くと、いいわね。」
「これは、カウント・ベイシーの『エイプリル・イン・パリ』。ちょっと古めかしい感じがすごくいいんだ。」
「ほんとね。」
本当にいい曲だと思う。聡司がこの曲を聴いているのだと思うと、胸がしめつけられるほど。
「・・・ジャズはもう終わった音楽だからなあ・・・。」
聡司が寂しそうにつぶやく。
「そう?でも、テレビのコマーシャルなんかでよく使われてるじゃない。」
「使われてるけど・・・。ジャズには不文律があるんだ。アコースティックな楽器しか使わないっていう。・・・だから、電子楽器が出回り始めてからは、時代が変わってしまって、
ジャズ・エイジは一応そこで終わってしまったんだ。」
「へえ、そうなんだ・・・。」
あたしは聡司の横顔をじっとみつめた。
「なんだよ?」