聡司はきっかり10分後に迎えに来てくれた。
あわてて出てきたらしく、いつもはわりときちんとした服装なのに、
Tシャツとジーンズというラフな格好で駆けつけてくれたのを見て、
あたしは不覚にも涙ぐみそうになってしまった。
悲しい涙ではなく、嬉しい涙で。
「ごめん、ありがと。」
あたしは助手席に乗り込んで、言った。
「俺が勝手に来たんだ。礼なんか言わなくていいんだよ。」
聡司は車をスタートさせた。
「聡司の車、初めて見た。」
「こいつは、俺が大学に入って1年目にバイトで金を貯めて買ったんだ。だからもう5年目の付き合いかな。東京においてくるのが寂しくて、金はかかったけど運んだんだ。」
「そうなの。」
聡司のこと、少しでも知ることができると、すごく嬉しい。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだ。
もっと、知りたい。聡司のこと・・・。もっと・・・。
「ちょっと走るか?」
「うん、どうせ明日も学校休みだし。どこか遠くに行きたい。」
「じゃあ、芦屋あたりまでドライブしよう。」
「うん。」
あたしは、世間の基準では、婚約を解消した可哀想な女かしら?
でも、今、あたしは幸せ。
誰に何といわれようと・・・。