「もしもし・・・聡司?」
「あ、由佳。今大丈夫か?」
「うん。どうしたの?」
「次回の家庭教師の時間のことで電話したんだけど。今、外?」
「うん、そうよ。どうして?」
「車の通る音が聞こえてるから、ちょっと聞いてみたんだ。もしかして彼氏といっしょなら、またかけなおすけど。」
「一緒じゃないわ。これからは、もう、たぶんずっとね。」
「え・・・どういう意味だよ?」
「・・・今ね、別れてきたところなの。」
「別れたって・・・」
「婚約を解消してって言ってきた。」
「ええっ!?」
「うふふ、びっくりした?」
「当たり前だろ。・・・そのこと伯母さんたち知ってるのか?」
「まだ、言ってない。」
「お前・・・大丈夫なのか、そんなことして。」
「さあ、どうかな。わからないわ。もう、どうにでもなれって気持ち。」
聡司のため息が電話越しに聞こえた。
「・・・今、どこにいるんだよ。」
「えっと・・・バス停が近くにあるわ。『白浜』のバス停。」
「・・・今日はこのあとどうするんだ?」
「どうもしないわ。・・・家にも帰りたくないし・・」
「・・・よし、じゃそこのバス停で待ってろ。10分で迎えに行くから。」
「えっ、いいの?」
「俺がほっとけないんだよ。・・・じゃ、そこで待ってろよ。」
そう言うと、聡司は電話を切った。