「ここまで話してもわかってくれないの。」
「・・・一度決めたことだ。何の根拠があって婚約解消ができると思ってるんだ?
何の証拠もないんだろ。」
あたしはバッグから、あの写真のコピーを出した。
「これが証拠よ。」
優也はコピーを一瞥し、軽蔑したように言った。
「これが何の証拠だっていうんだ。女がひとり写ってる写真が何の証拠になるっていうんだ?」
「証拠がなければ、何をしてもいいというの。」
「証拠がないのなら話にならない。」
あたしは、顔から血の気が引くのを感じていた。
確かにこの写真は何の証拠にもならない。
この写真に写っているのは、女性だけだから。
ふたりの付き合いを証明できるものではないことは、自分でもよくわかっていた。
でも、あたしの中でふくらんでしまった不信感を拭い去ろうという努力さえしようとしない優也の態度に、あたしは確信した。
・・・たとえ潔白だったとしても、わたしはこの人を愛せない・・・。
「そうね、話にならないわ。・・・やっぱり無理だわ。あなたと生きていくのは無理だってはっきりわかったわ。
さよなら。」
あたしはジュエルケースにいれた婚約指輪をダッシュボードに置いた。
「おい、由佳。」
声を無視して車から降りると、あたしは助手席のドアを後ろ手に閉めた。
優也は追いかけて来なかった。

あたしは歩きながらただ聡司のことだけを考えていた。
どうしても聡司に会いたかった。
そのとき、携帯が鳴った。
表示されていたのは「聡司」の文字だった。