「・・・何言ってるんだよ。・・・自分の言ってることの重大性がわかってるのか?」
「わからないで、こんなこと言えないわ。」
あたしはガラス越しに海を見ていた。
5月の海はどこまでも明るく、冬の海とは全く別物にみえた。
「何でだよ?納得のいく理由を聞かないと、そんな話は飲めないね。」
優也は冷たい声で言った。
「理由はわかってるはずよ。・・・あたしたちの間に、愛情があったことなんかなかったでしょ。」
少しの、沈黙。
「本気でそんなこと言ってるのか。」
優也は震える声で言った。
「ええ。」
また、沈黙。
やがて、搾り出すような声で、
「俺は納得できない。婚約解消はしない。」
と言った。
「そんなこと言っても無駄だわ。あたしたち、もう終わってるのよ。
最初からね・・・。
・・・それに気付かなかったあたしも悪いとおもってるわ。
だから、優也だけを責める気もないの。
ただ、もう婚約ごっこは終わりにしたいのよ。分かって。」
「分かれだって!?分からないよ。分かる気もないね。婚約の意味がわかってなかったとでもいうのか?」
「ええ、そうよ。分かってなかったんだわ、きっと。仕方ないじゃない。まだ17歳だったのよ。
別れるのは、お互いに打撃だと思うけど、愛のない結婚生活を始める前に別れた方がいいって、あなたは大人なんだから分かるはずよ。」
「俺は由佳を愛してるんだ。」
あたしはかっと頭に血が上った。
「愛してる?あたしが何も知らないとでも思ってるの?あなたにはあたしのほかに付き合ってるひとがいるじゃないの。」
あたしは言ってはいけないことを、言ってしまった。
優也はあたしの顔を穴があくほどみつめていた。
そして頭を振ると、ハンドルの方に向き直った。
「・・・とにかく、俺は別れない。婚約解消なんて、もってのほかだ。」