家に帰ったあたしは、お風呂の中で考えていた。
あたしが婚約を解消したら、お父さんの面目は丸つぶれかな、やっぱり。
でも、斉藤さんはきっと仕事は今までどおりにしてくれるだろう。
そういう公私混同はしない人だと、あたしは思っている。
そうなのだ。父とあたしは別の人格。父のためにあたしが犠牲になることはできないし、犠牲になったと知ったら、父の心は傷つくだろう。
あたしが優也を愛していない、いや、かつて1度も愛したことがなかったのだと気が付いてしまったことは、若干遅かったけれど遅すぎはしなかった。
結婚してから気付くより、今気付いてよかったのだ。
あたしは優也を愛していたのではなく、優也が提供してくれる未来予想図を欲していたのだと思う。
経済的安定と愛されているという安心感・・・あたしが生まれてからずっと欲しかったもの。それが欲しかったのだ。
だから、優也に他の女性の影がちらついたとき、つまり安心感がくずれたとき、あたしの中に優也に対する気持ちはかけらも残らなかったのだ。
驚いたことに、嫉妬さえほとんど感じなかった。
ただ、幻滅と自己憐憫・・・それに苦しんだ2ヶ月だった。
優也も失礼な人ではあるけれど、あたしも同じ位失礼だったと思う。
今のあたしにできる、唯一の誠意・・・それは、きちんと別れを告げることだ。

あたしはお風呂から上がると、携帯を手に取り、優也にメールをうち始めた。