「え、じゃ、やっぱり。」
「うん、まあ・・・」
「で、その人となんかあって落ち込んでるの?」
「そんなところ。」
「もし、聞いていいんだったら・・・相手はどんな人?」
「・・・実は・・・予備校の先生なんだ。」
「そう・・・。何歳なの?」
「26歳。」
「つきあってるの?」
亜由美は頭を振った。
「わからない。2回、ふたりで出かけたけど。」
「どこに?」
「1回は映画。もう1回は遊園地。」
「それって、りっぱなデートじゃない。」
「でも・・・でも・・・。」
亜由美の大きな瞳から一粒涙が流れ、頬を伝った。
「奥さんがいるらしいの。」

あたしは何て声をかけたらいいかわからなくて、とにかくハンカチを出して亜由美の涙をテーブル越しにそっと拭いた。
亜由美はハンカチを私の手から受け取って、
「ありがと。」
と握り締めた。
「私、知らなかったの。先生はそんな話何もしないし・・・。
そしたら、今日博多行きの電車の中で同じ予備校に通ってる他校の子が二人で話してたの。
古文の坂口先生には奥さんがいる、って。」
「・・・でも、その子たちが間違ってるかもしれないし。」
「ううん、片方の子がこの前の日曜日にキャナルシティに買い物に行ったんだって。
そしたら、女の人と一緒にいる坂口先生に会ったんだって。先生の彼女ですか、ってきいたら先生が困った顔したらしいの。そしたらその女性が家内です、って言ったって。」
「そう、なの・・・。」
「あたし、気分が悪くなって、吉塚で電車降りて・・・反対方向の電車が来たから、それに乗って帰ってきたの。」
「そう・・・。」
「ね、店出よ。」
亜由美は急に立ち上がった。