「かといって、その矛盾に立ち向かえるほど、まだ強くなれていないのね。だから一言でいってしまえば、逃避してしまうの。自分では逃避しようとは思っていないのよ。無意識の部分が、現状から逃げ出したいと思ってしまうのね。それが、息苦しさにつながって、苦しいからいつもよりたくさん呼吸してしまう。そうすると、酸素の血中濃度が高くなってさらに苦しくなる。その悪循環で、どんどん体が痺れてくるの。」
「それじゃあ、どうすればいいんでしょうか。」
「息が苦しくなったら、敢えて呼吸の速度を落として。吸うのは1秒、吐くのは8秒から10秒位かけてね。結局、酸素の血中濃度を下げるしかないんだもの。とにかく、息が苦しくなったら、吸う方ではなく吐く方に意識を集中してね。
今のところはそれでしばらく様子をみましょう。日常生活に支障がでるようになってしまったら、専門の先生を紹介するから。」

病院からの帰り道、あたしはまっすぐ家に帰る気になれず、本屋に立ち寄った。
あたしの中にそういう弱さがあることに、驚いていた。
雑誌をめくりながらも、あたしの思いはさまよっていた。

そのとき、携帯が鳴った。
亜由美からだ。
あたしは急いで本屋から外に出た。
「もしもし、亜由美?」
「ごめん、由佳。今、大丈夫?」
「うん、大丈夫よ。」