その次の日は5回目の家庭教師の日。
薬が効いたのか幸い熱も下がり、体調は良くなっていた。
でも、もし聡司に風邪を移したら申し訳ないと思い、あたしは聡司の携帯に電話をかけ、
事情を説明した。
「俺は大丈夫だよ。由佳の風邪が移るほどやわじゃないって。
でも数学なんかしたくないっていうんだったら、今日は特別に休みにしてやってもいいけど。」
冗談っぽく言っているけど、心配しているのが伝わってくる。
「いえ、先生が大丈夫なら、謹んで勉強させていただきます。」
あたしも冗談で返す。
「ふーん・・・でも、大丈夫なのか、ホントに。無理しなくていいんだぞ。」
急にまじめモードになってる。・・・ちょっとかわいい。
「うん、ホントに大丈夫。」
「そうか。・・じゃ、いつもの時間に行くから。」

聡司はいつも通りにやってきた。
いつものように例題を解き、問題を解く。
でも、念のために飲んでおいた風邪薬のせいか、あたしは途中で眠気におそわれ、気が付くと問題を解く手がとまってしまっていた。
「おい、由佳。大丈夫か?」
聡司は熱が上がったと思ったらしく、あたしのおでこに手を置いた。

その瞬間、あたしはわかった。
わかってしまった。

電流が流れるような、突き上げる衝動と甘い感情が、あたしをつらぬいた。

あたしは・・・・
あたしは、聡司のことが・・・

好き・・・。

あたしは恥ずかしさと動揺で頬が熱くなった。
きっと真っ赤になっていただろう。
「やっぱり、熱があるんじゃないか。どうして無理するんだよ。馬鹿だな・・・。」
聡司はそういって、あたしのおでこを人差し指で軽く押した。